SHIEN学会10周年フォーラム報告

〜SHIEN的リーダーの育成とSHIEN的風土の創成〜

2015年11月8日(日)、恵みの雨が降る秋の日の午後に、記念すべきSHIEN学会10周年の記念フォーラムが開催されました。プログラムは舘岡康雄先生の基調講演に続き、高野登氏の特別講演、そして森本昌憲氏、谷朗氏、望月智行氏の話題提供と全メンバー揃ってのパネルディスカッションへと続きました。4時間という時間の長さにも関わらず、温かさと充実感にあふれたフォーラムとなりました。ダイジェストでレポートします。

●  基調講演

「プロセスパラダイムとSHIEN学:新たな世界を拓くリーダーシップへ」

静岡大学大学院教授 SHIEN学会長 舘岡 康雄 氏

 SHIEN学会のバックボーンであるSHIEN学の公理はたった一つ。「従来、重なりのなかったところに、重なり(相互浸透過程)を創って、《してもらう/してあげる》を交換すること」です。「分業の合理性」によって、今、人々は切り離され、激しい競争のなかで自分自身を見失い、それが当たり前のようになっている、それが現在です。ここから私たちはもう一歩新しい世界を開いていく−−それを行うのがSHIEN学です。

 支援学とSHIEN学は視点が異なります。支援学は「支援する方の科学」、SHIEN学は「支援してもらう側の科学」が立ち上がるものです。支援学ではなくSHIEN学が必要になった理由、それは一言でいうと、人々が、そして世界が、プロセスパラダイムという新しいパラダイムに入ったからです。

 SHIEN学の「してもらう/してあげる」を交換する合理性によって何が起こるか。いくつかの実例によって紐解かれたのは、問題に対する取り組み方の違いが結果に大きく影響するという事実です。目に見えるものを使って問題をとくのか、目に見えないものを使って問題自体が消えるようにするのか……。

 もう見えるものの科学はやり尽くされてきました。問題があるからSHIENし合うと多くの人が思っています。SHIENしあわないことが問題とSHIEN学は考えています。してもらう科学を世界中で研究している人は一人もいません。

 どうぞみなさんSHIENの心とあり方を学ぶ道に進んでください。


●  招待講演

「リッツ・カールトンが大切にする ひとが輝く組織のありかた」

人とホスピタリティ研究所代表

ザ・リッツカールトンホテル元日本支社長 高野 登氏

 神社の禰宜さん、つまりお坊さんと話をするなかで、日本人が本来もっていて忘れてしまっていることがたくさんあるということに気がつきました。たとえば「諸国客衆繁盛」という言葉があります。昭和初期くらいまでに神社仏閣に奉納された石灯籠の後ろに書かれていた言葉です。日本中にいる私たちのお客様が繁盛あそばされますようにという祈りが込められています。昭和の半ばから後半にかけてこの言葉が「商売繁盛」に変わりました。うちが儲かりますように、ですよね。この違いには相当大きなものがあります。

 私は、何がリッツ・カールトンをリッツ・カールトンたらしめていたのかを考えました。部署を変えてお互いに助けあうラテラルサービスというのがあります。自分のところに人がいないから、ちょっと人を貸してよといったラテラルサービスを思い出したら、これがSHIENだったのかなと思い至りました。

 こう考えてみると、すべての物事は、今日の大きなテーマであるSHIENというところに自然に落ち着いていくような気がして仕方ありません。組織や人間関係でも、ある時期まで圧倒的にSHIENをされていて、ある時期からSHENをするようになる。

 自分という存在はほかの人にとってみたら環境そのものです。環境を作り出す自分はどんな風を外に対して送り出すことができるかを考えればいいのです。それによって、生まれてくるSHIENのレベルが違うのではないかと思います。


●  ファーストスピーカー

「憩いの場の提供」

藤田観光株式会社元会長 森本 昌憲 氏

 藤田観光は11月7日に創立60周年を迎えました。ルーツは明治2年、藤田傳三郎が山口県萩に生まれて商社を作りました。そのうち自分は経済を通じて貢献したいと鉱山業を初めて、そこで働く人たちが憩う場所として日本で最古の芝居小屋を作りました。働く人たちのための憩いの場を提供するという現在に続くルーツはここにあります。

 成長と発展ということを考えると、藤田観光は昭和23年、箱根小涌園を、昭和27年に椿山荘をガーデンレストランとして始め、昭和28年にワシントンホテルを始めました。一人で専用ルームに泊まってバストイレ完備、出張旅費の範囲内でビールも飲めてというコンビニエントなホテルはこれから伸びるとして始めました。最初に手をつけてきたという自負を持ってやってきました。

 一つ一つの評判を重ねていくなかで、しかし我々は大海のなかの蛸壺に入り、蛸壺のなかでさらに横穴を掘ってしまった。海が荒れていくのに気づかなくなってしまったのです。これではいけない、世の中をもっともっと見るということを考えないといけないと、60年を機に動き始めたのが現在です。杉はいくら大きくなっても杉ですが、オタマジャクシがカエルになるように、サナギがチョウになるように、質の向上を目指しています。


●  セカンドスピーカー

「もっと人間活動を」

株式会社ユニバンス 谷 朗 氏

 人が死ぬ前に後悔する5つのことの第一が、「他人が自分に期待する人生ではなく、もっと自由に自分に忠実な人生を生きる勇気があればよかった」だそうです。これを聞いてショックを受けました。自分の人生を振り返って見ると、常識的であろうとして自分を抑えて体裁を整えた人生だったのではないかと思いました。

 わたしは、趣味は絵でしたが、絵にそういう意味を感じました。絵は本来自由な表現であるべきなのに、自分の絵はありきたりで、それに対して子供の絵は実に自由で驚きました。自分の絵は人に見せるためとか理屈にあっているとか左脳で書いているだけではないか、と。この絵を壊したいと、そうすると本来の自分が出てくるのではないかと壊してみました。そうすると具象ではなく抽象になってきました。一度自分のなかに感覚として落とした構図を描こうと。昨年初めての個展を開いたわけですが、おかげさまでわかったことは、会社時代の左脳と右脳の両方を使って人間活動をすれば、1回の人生を2倍に楽しめるのではないかということでした。

 世はまさに高齢化社会で、高齢者の割合が増えています。高齢者を含めた社会の生きがいづくりに、SHIENの考え方が重要ではないかと考えます。高齢社会で高齢者と次世代の方でどうやってSHIENができるかということを問題として提起したいと思います。


●  サードスピーカー

「SHIEN的風土づくりは組織の一体化から」

 川越胃腸病院 望月院長

 小さな病院からスタートして33年です。医療機関をご覧になるときに個性豊かな人が集まっていると思われると思います。医療機関の組織のつながりは先輩から後輩へのつながりが強い反面、横の関係は希薄です。わたしが一番苦労してきたことは、様々な価値観、目的をもった個性豊かな人たちをまとめることです。

 わたしが感じるのは人から与えられる幸せを超える幸せ感があるということです。人の役にたつ、感謝されること、それが自分に戻ってきて感謝すること、それが一人一人感じられる、そういう組織であるべきと考えていました。これがSHIEN学の真理につながるものであると考えています。

 みなさんは病院にかかるときにいろいろな希望を持って訪れます。私たちはそれに応えなければならないわけですが、私たちがどんなに努力をしても救えない命があります。ある一定の確率で、患者さんにとっては怒り、悲しみ、訴訟という結果になる。私たちがこうしたことを恐れ、リスクを取らず守りに回れば、萎縮医療に繋がっていきます。この先にあるのは医療崩壊です。これは誰も幸せにしません。これを避けるには、信頼関係を築く、その上で起きる結果はお互いが受け入れる。結果のみを追い求めるのは現代の社会が欠ける大きな病巣であると思っています。お互いが支えあう社会をつくるのが大切だと思いながら仕事をしています。


パネルディスカッション

Q1:みなさまの初心を教えてください。

 

森本 人が喜ぶことをやりなさいと親から言われていまして、人の喜びをもって自分の喜びとしなさい、というのが初心です。

 

谷 中学生のときに戦後を迎え、混乱のなかで180度価値観がひっくり返ってしまったなかで、どうやって生きていくかというのが原点。自分で納得するというのが最大の価値です。

 

望月 好きな道を見つける。その道を徹底して追求するのがわたしの初心。

 

高野 迷ったときには、自分のなかに浮かんだ情景に正直になる。それは今でも変わりません。

 

館岡 わたしは、いつも自分の奥から聞こえてくる声があります。誰も考え付かない思想を思いつく、東洋と西洋の統合など、これがわたしの役割だと思っています。

 

Q2:してもらう能力を磨くにはどうすればいいでしょうか。

 

館岡 SHIENしてもらう能力というのは今まで私たちが経験しなかった能力です。これを短期間に高めていくワークショップがあります。これを体験してみてください。SHIENアカデミーのなかでやっています。

 

Q3:信頼の根っこ作りには何が必要でしょうか。

 

森本 どんなに嫌いな人でも、違うなと思っても、返す言葉のなかに「なるほど」とか「素晴らしいね」「すごいね」と声を出すことで、自分の心のなかが広がっていくと思うんですよね。受け入れていく言葉を発するところから始める。

 

谷 高齢になってきて、感謝と信頼をせざるをえなくなる。そういうことかな。初めから信頼をというのは納得できないんです。

 

望月 満足というのは期待値を超えるんですが、満足が重なると感激する、感激が続くと感動する、感動が続くと感謝する。感謝すると信頼が生まれる。信頼というのは経営の最終目標と考えています。

 

高野 迷いのない信頼関係はどうやって生まれるのか。答えは一つです。信頼をするという覚悟を決めているということではないか。

 

Q4:今後の日本、今後の未来について提言を。

 

館岡 いろいろ考えることが浮かびますが、今一番思っていてしたいなと思うことは、近代がもたらした矛盾があるのではないかと思います。……つまり手が付いていない科学をやっていこうということです。

 

森本 和の心をもう一度取り戻すということです。一つは日本の和、もう一つは調和の和。日本が培ってきた茶道、花道など「道」のつくものを取り出して、塾のようにやっていくべきと思っています。

 

谷 SHIENが素晴らしいことを学ばせていただきました。日本も高齢化社会になってきまして、若者が高齢者をどう支えるかとか問題になってきています。高齢者と若い方とのSHIEN関係ができるのかどうかというところが、実感を含めての提言です。

 

望月 2点あります。一つはもう一度日本人は自分たちの原点を見直そうということです。2点目、これからの時代は、子供達が日本が背負っています。そのためには大人が背中で見せていかないといけません。

 

高野 自分の中に「心柱」を持つことが大切だと思っています。大人の心柱は慈しみと尊厳ではないかと思っています。自己成長というものに自分が責任を持つ、そうやって心柱をつくっていくということが大切だと思います。

スピーカーの皆さま、参加者の皆さま、温かくて素敵な時間を、ありがとうございました!

写真:平川 啓子

文責:村木 則予